最近読了した本に「建築家 五十嵐正」という本がある。とても感銘したので、今日はこの建築家のことを書いてみよう。 五十嵐正は、丹下健三や黒川紀章といったいわゆる日本を代表するような建築家ではない。 ただひたすら、北海道の帯広でだけ、30年間に500棟の設計をした建築家である。 急逝して25年経つが、もちろん現在でも帯広に行けば彼の設計した建物はたくさん立っている。 不思議なのは、モダンかといえばそういう建物もあるがそれにこだわっているわけでもない。伝統的なものへのこだわりかといえば、そういう建物もあるがそれだけでもない。その施主の考え、その建物によって変幻自在な設計をした点である。 かといって、建築雑誌に載るような最先端の設計でもない。写真がたくさん載っていたが、いたって普通の建物なのである。ただ品があって遊び心があるどれも素敵な建物ではあるが。 五十嵐正はひたすら建物の設計が好きだったのではないかといわれている。いつも午前2時ごろまで働き、朝には普通にやってきたという。職員も何人かはいたが、基本的に500棟全部を、ディテールの部分も含め、彼が考え図面化したという。また現場が始まるとほぼ毎日やってきて、眺めていたという。どうして毎日来るのかと問われたら、「自分の設計したものが曇った日にも晴れた日にも設計の意図通りになっているかどうかを確認するためだ。」といったらしい。気に食わないと「壊してやり直せ」と工務店に命じたという。頭にきた工務店がすごむと「金は自分が出すから頼むからいったん壊してここをこうしてくれ。」とあくまで妥協しなかったという。ものすごいこだわりである。 今も当時のままの姿を損なうことなくきれいに住んでいる阿部さんと言う方は次のように述べている。「住宅なら五十嵐さんという評判で、帯広のちょっとした方の住宅はほとんど手がけていたといっても良いほどで、私も五十嵐さんに是非という気持ちでお願いしたんです。」すると五十嵐は次のように返してきたという。「阿部さん、引き受けるのは良いけれど、私の思い通りに設計させてくれ。」 しかしどの建物でも最低でも5案、多いときは10を超える案を提案してきてほとんどの方は、お任せしたという。そのためか設計だけでも4か月はかかり工事など先ほどのような工務店との激しいやり取りの中で作っていくわけだからとても時間がかかったようだ。 絶対に手抜きをしないで丁寧な設計・管理をすることを使命感を持ってやりぬいた建築家のようだ。30年間ただひたすら帯広での建築設計にすべての情熱を注ぎ、駆けぬけていった男、それが建築家・五十嵐正だったのである。最近のただ工期短縮、年間契約棟数を増やすことにだけいそしむ業者を見るにつけ、五十嵐正の生き様は衝撃的であった。あっぱれな士である。
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